科学者が説明する幸福が創造性をさまたげるプロセス

幸せになると、生産性や利益率が高まる。幸せになれば、目標を実現しやすくなる。これまで、幸せになることのよい点を重点的に紹介してきました。しかし、幸せになることを重視すると、かえって幸福度が下がる。そんな研究もありました。よい点ばかりでなく、そうでない点もできる限りご紹介していこうと思います。

 

アメリカでは、企業は従業員をより仕事に集中し、創造力を発揮してもらうために、幸せに答えを得ようとしているそうです。多くの企業でチーフ・ハピネス・オフィサー(CHO)という地位があり、現実に仕事をしているとか。

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アイデアを出す段階は、ポジティビティが役立つ。

しかし研究者の多くは、創造性の発揮には粘り強さや問題解決スキルが必要であり、ポジティビティ(肯定的な感情)は必要ではないといいます。ケント大学の計算科学者であるアンナ・ジョルダナス(Anna Jordanous)とサセックス大学の言語学者ビル・ケラー(Bill Keller)によると、創造性のプロセスに幸福は含まれていない。

北テキサス大学の心理学者マーク・デービス(Mark Davis)によると、創造性は2つの段階に分けられるそうです。最初のアイデア生成と、次の問題解決の部分です。マーク・デービスの研究によると、ポジティブな気分は最初のブレーンストーミング(集まってアイデアを出すこと)や情報の処理といった、できるだけ多くのアイデアを出すことには役立ちます。これらのことを行う場合には、判断はしない方がいいわけです。判断してしまうと、アイデアの生成が妨げられるからです。

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ストレスが仕事完遂へのモティベーションとなる

しかし、障害を克服し、仕事を完遂するためには、集中力・注意力を高く保つことが非常に大切です。そして、よい気分は問題解決に役立たないのです。問題解決には判断すなわち批判、評価、実験と失敗が必要ですが、こうした判断をする際には、ほぼ必然的にいい気分にはなりません。問題から生じるストレスは不快です。しかし、そのストレスが仕事を完遂させるモティベーションにもなります。マーク・デービスによると、言い換えれば、負の情動は何かを創造するプロセスに有用なのです。

強いネガティブな気分と強いポジティブな気分が混在しているとき、創造性が最も高かった。

同様に、ライス大学の心理学者ジェニファー・ジョージとジン・ジョウ(Jing Zhou)によると、困難な課題に直面すると、必ずしも幸せにはならないけれど、よい創造的な仕事を生み出せることが分かったそうです。悪い気分や感情が表出したとき、問題の存在が明らかになって、問題を解決・改善しようという気になるからです。

160人以上の従業員を対象として、マネージャーのサポートと自分の気分について1週間報告してもらい、上司がその従業員の創造性を評価しました。もっとも創造性が高いと評価された従業員は、強いネガティブな気分とポジティブな気分の両方を感じていました。また、自分にはしっかりサポートしてくれるマネージャーがいると感じていました。それに対して、より幸せでよい上司がいる従業員は、ポジティブとネガティブな情動が混在している従業員に比較して、創造性が有意に低く評価されました。両方の情動が混在していて悪い上司がいる従業員が、創造性が最も低く評価されました。

強い情動は創造性を妨げる

ただ心理学者らは、創造性を高めるために、情動的に激しい生活をしろと言っているわけではありません。スタンフォード大学のエマ・セッパラは、強いポジティブな情動をもつことは、強いネガティブな情動と同じくらい努力を要するといいます。ストレスを感じていたり、高度に情動的になっているときには、創造力はそれほど発揮されないのです。

エール大学の神経科学者であるエミー・アーンストン(Amy Arnsten)は、脳科学的にも同様だといいます。創造性に関する脳の機能を最適に保つためには、気分をうまく管理するのが重要で、幸福や意図的に生じさせたストレスは重要ではない。強い情動的なプレッシャーは、よい情動でも悪い情動でも、創造性をつかさどる脳の部位である前頭前皮質の機能不全を引き起こすそうです。

仕事を完遂できると感じていれば、ストレスもそれほど生じない。

自分の仕事を正確に評価し、問題解決のプロセスで次に何をするかを決定する際には、ある程度冷静さが必要です。いい気分でいると、自分の仕事の現状を正確に把握できなくなってしまうのです。アーンストンによると、自分は仕事を完遂することができると感じていれば、それほどストレスも感じず、不安感や不幸感をうまく処理でき、モティベーションも保たれて創造的な解決策も生まれるといいます。

ネガティブな気分も仕事の完遂に役立つ

問題を解決しようとすると、フラストレーションを感じたり、自暴自棄になったり、苛立ったり、怒りを感じたりします。しかし、こうしたネガティブな気分も、仕事の完遂に役立って、私たちのためになるのです。途中で顔をしかめることも、才能のひらめきに対する小さな代償なのかもしれません。

感想

「自分は仕事を絶対に完遂できる」。そう信じるけれど、過信はせずに(幸福にならずに)地道に努力する。そんなことが必要なのかなと思いました。あまり幸せになってもダメなんですね(笑)。